復活の「やみなべ☆」
左:そら。右:じゅんや。 2人の腐女子による自己満足のためのブログ。ジャンルはDBメインの底なし沼。文章はじゅんや、主に管理のそら。不思議なのはCPが正反対なのに大親友なこの2人。
by oyakatasamah
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はじめまして&こんにちは。管理人のかたっぽのそらです。
長く運営をしておりますが、このブログを好きでいてくださるかたの、ちょっとした笑いのためにこのブログサイトはそのままの亀のような運営を続けております。
年単位で更新しないクズ管理人どもをあたたかく見守ってくださり、本当に皆様に救われております。
このブログはじゅんやとそらによる好きなものをきままに書き連ねるという気ままなブログサイトです。
現在の主なジャンルは
・戦○BASARA
・戦○無双
・DB
以上になっております。
しかしこのジャンルはすべて原作者さまたちの大切な作品。
私どもの駄文は足元にも及ばないので、まったく関係ないところではしゃいで応援しているととらえてくださいませ。そのはしゃいだ気持ちを同じような方と共有できたらな、と思います。
新しいジャンルについては管理人どもが浮気をすればそちらも増えるかと思います。
ちなみに二人は漫画・ゲームヲタなのでそちら方面だと思います。
このブログは主に文章書きのじゅんや、管理人とときどき文章やら書くそら。
2人でどこかに行ったりしたときは気ままに旅日記などを書いたりしています。
コメントについて
皆様のコメントは大切に読ませていただいています!!
ご希望や何かこのブログに対してご意見などありましたらコメントにてお伝えください。
お約束
でもお約束がひとつ。
このブログの文章たちはわたしたちの文章であり、違うところで転載はおやめください。
ブログを訪れる方にそぐわない文章は削除、非公開にするように気をつけております。私たちの見知らぬところでわたしたちの文章を見た方を不快な気持ちにさせたくはないので、よろしくお願いします。
作品数の増えたDBに対しては目次を作成してあります!!参考にされてくださいね♪
長々とお付き合いいただきありがとうございました!
少しでもこのブログで楽しんでいただけますことを願って。
6月12日追記
M・Yさんのありがたいコメントをそらの手違いで削除してしまいました・・・・・・
私たちのブログの小説で楽しんでいただければとてもうれしいです。
リクエストいただいたものは、ネタが思い浮かび次第、執筆に取り掛かると思います。
読んでくださる方々のために、少しでもまたがんばれたらと思います!!
コメントは大切に読ませていただいています。削除しまって本当にすみませんでした。
長く運営をしておりますが、このブログを好きでいてくださるかたの、ちょっとした笑いのためにこのブログサイトはそのままの亀のような運営を続けております。
年単位で更新しないクズ管理人どもをあたたかく見守ってくださり、本当に皆様に救われております。
このブログはじゅんやとそらによる好きなものをきままに書き連ねるという気ままなブログサイトです。
現在の主なジャンルは
・戦○BASARA
・戦○無双
・DB
以上になっております。
しかしこのジャンルはすべて原作者さまたちの大切な作品。
私どもの駄文は足元にも及ばないので、まったく関係ないところではしゃいで応援しているととらえてくださいませ。そのはしゃいだ気持ちを同じような方と共有できたらな、と思います。
新しいジャンルについては管理人どもが浮気をすればそちらも増えるかと思います。
ちなみに二人は漫画・ゲームヲタなのでそちら方面だと思います。
このブログは主に文章書きのじゅんや、管理人とときどき文章やら書くそら。
2人でどこかに行ったりしたときは気ままに旅日記などを書いたりしています。
コメントについて
皆様のコメントは大切に読ませていただいています!!
ご希望や何かこのブログに対してご意見などありましたらコメントにてお伝えください。
お約束
でもお約束がひとつ。
このブログの文章たちはわたしたちの文章であり、違うところで転載はおやめください。
ブログを訪れる方にそぐわない文章は削除、非公開にするように気をつけております。私たちの見知らぬところでわたしたちの文章を見た方を不快な気持ちにさせたくはないので、よろしくお願いします。
作品数の増えたDBに対しては目次を作成してあります!!参考にされてくださいね♪
長々とお付き合いいただきありがとうございました!
少しでもこのブログで楽しんでいただけますことを願って。
6月12日追記
M・Yさんのありがたいコメントをそらの手違いで削除してしまいました・・・・・・
私たちのブログの小説で楽しんでいただければとてもうれしいです。
リクエストいただいたものは、ネタが思い浮かび次第、執筆に取り掛かると思います。
読んでくださる方々のために、少しでもまたがんばれたらと思います!!
コメントは大切に読ませていただいています。削除しまって本当にすみませんでした。
#
by oyakatasamah
| 2016-12-31 18:47
| おしらせ
下に行くほど新しいものになります。
地獄死者シリーズばかりなので簡単に設定説明。
時期はDBGTの地獄から地球に死者が帰ってきたあのころ。
バーダック、ターレス、ラディッツがやってきて、そのままいついてしまったというものです。
バーダック、ターレスは孫家にいますが、ラディッツだけは悟飯が小さい頃のトラウマからぶち殺したい衝動に駆られるためカプセルコーポに住んでいます。
住民票を悟飯が改ざんしたため、悟空は戸籍上悟飯の息子ということになり、パンの弟として小学校に通っております。
詳しくは「地獄よりの死者」「地獄死者-小学校へ」のあたりをご覧くだされば、あとの内容はたいてい分かると思います。
地獄死者シリーズには「地獄死者」と前に表記してますよ☆
(ちなみに漢字で表記はじゅんや作、ひらがなはそら作です)
基本はファザコン悟飯が悟空を猫かわいがりするというだけですが、かわいがり方が異常なため周りが被害を受けてます。
たぶん、うちの悟飯だったら本気で海に向かって父さん愛してると叫べます。
悟空のためだったらなんでもします。
障害物は魔王になって排除します。
更新は、じゅんやの気分しだい。最近はちょいとじゅんやが忙しいので亀更新になりました。
時々「おらに元気をわけてくれ!」モードになったそらが「次!」とじゅんやをせっつき、忙しい合間にじゅんやが書いてくれるのでぼちぼち更新になります。
とりあえず、魔王な悟飯とかわいらしい悟空がいっぱいです。
地獄よりの死者
地獄よりの死者2
地獄よりの死者3
笑顔の反対側
地獄よりの死者4 ~過去ヘ道ヅレ~
地獄よりの死者5 ~過去ヘ道ヅレ~
地獄よりの死者6 ~過去ヘ道ヅレ~
小ネタ
地獄死者~小学校へ~
地獄死者~小学校へ2 ~
地獄死者~小学校へ最終~
地獄死者~過去でDV ~前編
地獄死者~過去でDV ~後編
地獄死者~おつかい~
らくがき
素敵なポーズ( 写真)
地獄死者~家庭訪問~
地獄死者~日曜日の来訪者~
地獄死者~特売の卵~
届かない場所
地獄死者~願いごと二つ~
地獄死者~仕事見学~前編
地獄死者~仕事見学~後編
地獄死者~過去ヘ再ビ~1
地獄死者~過去ヘ再ビ~2
地獄死者~過去ヘ再ビ~3
地獄死者~過去ヘ再ビ~最終
地獄死者~時間の旅~1
地獄死者~時間の旅~2
地獄死者~時間の旅~3
地獄死者~時間の旅~最終
小ネタ(DB× BSR2)
地獄死者~予防注射の日~
地獄死者~初カラオケと悟天の不幸~
地獄死者~いらんことしいGJ ~
地獄死者~運動会と勲章~前編
地獄死者~運動会と勲章~後編
地獄死者~ぬいぐるみ変化~
地獄死者~白熱の学芸会~前編
地獄死者~白熱の学芸会~後編
地獄死者~町内会のお知らせ~
地獄死者~逃げろ四つ子チャン~前
地獄死者~逃げろ四つ子チャン~後
地獄死者~酔っ払いの奇行~
地獄死者~お土産のきぐるみ~
地獄死者~頑張れゴボウ~
地獄死者~お礼の言葉~
地獄死者~臨時の代役~
地獄死者~演技の天才~前編
地獄死者~演技の天才~後編
地獄死者~ハロウィンの悲劇~
君の名は前編( 戦ムソ・DB ・ガンムソ)
君の名は後編( 戦ムソ・DB ・ガンムソ)
地獄死者~ニューヒーロー登場~
地獄死者~ストレス解消法~前編
地獄死者~ストレス解消法~後編
地獄死者~忙しい日曜日~前編
地獄死者~忙しい日曜日~後編
地獄死者~拾った子猫~
地獄死者~電話の応対~
地獄死者~時空の狭間~1
地獄死者~時空の狭間~2
地獄死者~時空の狭間~3
地獄死者~時空の狭間~4
地獄死者~時空の狭間~最終
余計なマスコット参入~地獄死者~1
余計なマスコット参入~地獄死者~2
余計なマスコット参入~地獄死者~3
余計なマスコット参入~最終
地獄死者~おバカは誰だ~
地獄死者~クリスマスパーティ~
地獄死者~薬の効果~
希望
小ネタ(DB/ バサラ2/ムソ2)
地獄死者~お留守番~
地獄死者~兄の来校~
地獄死者~最悪のテスト~
地獄死者~遊んでもらう方法~
地獄死者~歯医者さんへ行こう~
地獄死者~ドライブと動物園~
地獄死者~鍋の材料~
地獄死者~不幸の元凶~
地獄死者~二人の策士~
地獄死者~探せ三つ子チャン~1
地獄死者~探せ三つ子チャン~2
地獄死者~探せ三つ子チャン~最終
地獄死者~彼女偽装~
地獄死者~実験と事故~1
地獄死者~実験と事故~2
地獄死者~実験と事故~最終
地獄死者~デパートヘお買物~
地獄死者~破壊神~前編
地獄死者~破壊神~後編
地獄死者~暇つぶしの恐怖~
地獄死者~未来からの誘い~1
地獄死者~未来からの誘い~2
地獄死者~未来からの誘い~最終
地獄死者~部屋への侵入者~
じごくししゃ~父親参観日1~
じごくししゃ~父親参観日2~
地獄死者~バイトの光景~
そらのDB☆Cooking
地獄死者〜とばっちり〜
地獄死者〜残暑の猛威〜
地獄死者〜好奇心は○○を殺す〜
じごくししゃ~ブルマの微笑み~
地獄死者〜初めての注射〜
地獄死者〜エロ本とみかん〜
(・∞□)(写真)
地獄死者〜魔王と弱虫〜
地獄死者〜テストの行方〜
地獄死者〜忍耐力トレーニング〜
地獄死者〜誕生日~
地獄死者〜性格と相性〜
地獄使者〜大切な忘れ物〜
地獄死者〜例のジャージ〜
地獄死者〜大人の打算〜
地獄死者シリーズばかりなので簡単に設定説明。
時期はDBGTの地獄から地球に死者が帰ってきたあのころ。
バーダック、ターレス、ラディッツがやってきて、そのままいついてしまったというものです。
バーダック、ターレスは孫家にいますが、ラディッツだけは悟飯が小さい頃のトラウマからぶち殺したい衝動に駆られるためカプセルコーポに住んでいます。
住民票を悟飯が改ざんしたため、悟空は戸籍上悟飯の息子ということになり、パンの弟として小学校に通っております。
詳しくは「地獄よりの死者」「地獄死者-小学校へ」のあたりをご覧くだされば、あとの内容はたいてい分かると思います。
地獄死者シリーズには「地獄死者」と前に表記してますよ☆
(ちなみに漢字で表記はじゅんや作、ひらがなはそら作です)
基本はファザコン悟飯が悟空を猫かわいがりするというだけですが、かわいがり方が異常なため周りが被害を受けてます。
たぶん、うちの悟飯だったら本気で海に向かって父さん愛してると叫べます。
悟空のためだったらなんでもします。
障害物は魔王になって排除します。
更新は、じゅんやの気分しだい。最近はちょいとじゅんやが忙しいので亀更新になりました。
時々「おらに元気をわけてくれ!」モードになったそらが「次!」とじゅんやをせっつき、忙しい合間にじゅんやが書いてくれるのでぼちぼち更新になります。
とりあえず、魔王な悟飯とかわいらしい悟空がいっぱいです。
地獄よりの死者
地獄よりの死者2
地獄よりの死者3
笑顔の反対側
地獄よりの死者4 ~過去ヘ道ヅレ~
地獄よりの死者5 ~過去ヘ道ヅレ~
地獄よりの死者6 ~過去ヘ道ヅレ~
小ネタ
地獄死者~小学校へ~
地獄死者~小学校へ2 ~
地獄死者~小学校へ最終~
地獄死者~過去でDV ~前編
地獄死者~過去でDV ~後編
地獄死者~おつかい~
らくがき
素敵なポーズ( 写真)
地獄死者~家庭訪問~
地獄死者~日曜日の来訪者~
地獄死者~特売の卵~
届かない場所
地獄死者~願いごと二つ~
地獄死者~仕事見学~前編
地獄死者~仕事見学~後編
地獄死者~過去ヘ再ビ~1
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地獄死者~時間の旅~1
地獄死者~時間の旅~2
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地獄死者~時間の旅~最終
小ネタ(DB× BSR2)
地獄死者~予防注射の日~
地獄死者~初カラオケと悟天の不幸~
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地獄死者~運動会と勲章~前編
地獄死者~運動会と勲章~後編
地獄死者~ぬいぐるみ変化~
地獄死者~白熱の学芸会~前編
地獄死者~白熱の学芸会~後編
地獄死者~町内会のお知らせ~
地獄死者~逃げろ四つ子チャン~前
地獄死者~逃げろ四つ子チャン~後
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地獄死者~頑張れゴボウ~
地獄死者~お礼の言葉~
地獄死者~臨時の代役~
地獄死者~演技の天才~前編
地獄死者~演技の天才~後編
地獄死者~ハロウィンの悲劇~
君の名は前編( 戦ムソ・DB ・ガンムソ)
君の名は後編( 戦ムソ・DB ・ガンムソ)
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地獄死者~電話の応対~
地獄死者~時空の狭間~1
地獄死者~時空の狭間~2
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地獄死者~クリスマスパーティ~
地獄死者~薬の効果~
希望
小ネタ(DB/ バサラ2/ムソ2)
地獄死者~お留守番~
地獄死者~兄の来校~
地獄死者~最悪のテスト~
地獄死者~遊んでもらう方法~
地獄死者~歯医者さんへ行こう~
地獄死者~ドライブと動物園~
地獄死者~鍋の材料~
地獄死者~不幸の元凶~
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地獄死者~探せ三つ子チャン~1
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地獄死者~デパートヘお買物~
地獄死者~破壊神~前編
地獄死者~破壊神~後編
地獄死者~暇つぶしの恐怖~
地獄死者~未来からの誘い~1
地獄死者~未来からの誘い~2
地獄死者~未来からの誘い~最終
地獄死者~部屋への侵入者~
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地獄死者〜とばっちり〜
地獄死者〜残暑の猛威〜
地獄死者〜好奇心は○○を殺す〜
じごくししゃ~ブルマの微笑み~
地獄死者〜初めての注射〜
地獄死者〜エロ本とみかん〜
(・∞□)(写真)
地獄死者〜魔王と弱虫〜
地獄死者〜テストの行方〜
地獄死者〜忍耐力トレーニング〜
地獄死者〜誕生日~
地獄死者〜性格と相性〜
地獄使者〜大切な忘れ物〜
地獄死者〜例のジャージ〜
地獄死者〜大人の打算〜
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by oyakatasamah
| 2016-12-30 23:59
| DB/他
深い深い、甲斐の山奥。サスケは、翼をお手入れしながら、木の下を走り回るユッコロを眺めていました。
「旦那、元気だねぇ」
冬は雪深い甲斐のお山も、夏場は様々な植物が生い茂っています。そして、蒸し暑い空気に含まれる湿気は、サスケの羽を濡らしていくのです。サスケはせっせと毛繕いしながら、小さく呟きました。
「この、クソ暑いのに……」
燃えあがれぇえしゃしゅけぇえ、などと、暑苦しく走り回るユッコロのそばで、タケゾーが鍋をかき回しています。お鍋の向こうにいるタケゾーは、鍋の湯気で、ゆらゆら揺れて見えました。
鍋は暑いよ、と進言するのですが、鍋を指し示されて終了です。長い付き合いで、味噌を入れろと指示したのを察し、ぶつくさいいながらも入れてしまうのがいけないのでしょうか。
「何をだらけているかぁ、サスケぇ!」
ユッコロが投げるものを避けるのも面倒くさいほどの暑さです。しかし、横着をして避けずにいると、毒々しい色をしたキノコを投げてくるので、しっかり避けなければなりません。
「旦那は、暑くないの?」
「暑くなど無い!」
何故ならばこの魂、熱く燃えたぎっているからぁああああ、とさらに暑苦しく雄叫びをあげながら木の根っこにすっ転び、ユッコロはころころと転がって、木々の向こうに見えなくなってしまいました。
「あーらら。ま、向こうには沢があるから、少しは冷やせるね」
もう少ししたら、俺も行こうかな、と呟きながら、サスケは毛繕いの続きに勤しんでいました。
しばらくして、がさがさと草むらが動き、赤いものが視界に入りました。ユッコロが帰ってきたのでしょう。
「早かったね。お帰り」
サスケは見下ろして、まばたきしました。
立派な鶏冠の雄鶏が、草むらの中から鋭い眼差しで、サスケを見上げているのです。木の上からさしはかるに、タケゾーより一回り小さいくらいでしょうか。ユッコロをのせて走れそうなくらい、大きくて立派です。
りりしく威厳のある風体の雄鶏は、サスケを睨み付けたまま、くちばしを開きました。
「ちゃーす」
今のは何だ、とサスケはまばたきしました。
「あ、聞こえなかった? 実はジイちゃんですかね。ちゃーす」
年若い声と口調はあっているのですが、それが、目の前の厳かな雰囲気の雄鶏から聞こえてくるのは、違和感しかありません。
「……こんちは」
挨拶し返すと、雄鶏は茂みの中から出てきました。光沢のある茶色の羽毛や、艶やかに黒く長い尻尾が実に見事です。厳格さを兼ね備えた、芸術的な美しさの雄鶏ですが、口調がすべてを台無しにしていました。
「ここ、涼しくていいねぇ」
お前正気か、と言いかけたサスケに、チャラ鶏は続けました。
「高台だけあって、涼しくていい風だよ。沢も近いし、マジ最高」
目を細め、羽を広げてから、チャラ鶏は怪訝な口調でサスケを見上げました。
「ねえ。煮えたぎる鍋の上って、熱くないスか」
サスケは毛繕いをやめて、真下を見ました。タケゾーのかき回す鍋の湯気が、真上にいるサスケに当たっています。毛繕いをいくらしても、湿気てしまうわけがようやくわかりました。
「あっ、さては修行!? パネェ、かっけー!」
気づかなかっただけだったのですが、いつの間にか気に入られた様子です。
「えーと。どこから来たの?」
聞きながら枝を変えると、高原の涼しい風が羽毛を撫でていきました。
「俺は……」
チャラ鶏が説明する前に、さこーん、と声が響きました。
「左近、そこにいたか!」
ふわふわの尻尾を持つ子狐、三成がゆめきちを抱えて走ってきます。その少し後ろから、大きなお猿が狸を気遣いながら歩いて来るのが見えました。
「左近、なぜ勝手に出奔したのだ! 裏切りに値するぞ!!」
口を尖らせ、拗ねたように三成が続けます。
「私が裏切りを憎んでいると知っての狼藉か!?」
「あれ、三成さま。俺、三成さまの友達に会いに行きますって伝言残しましたよ」
おっかしいなぁ、と左近が首をかしげます。追い付いてきたお猿こと秀吉が、目を細めました。
「我は聞いていないぞ。半兵衛はどうだ」
「僕も初耳だよ、秀吉。左近くん、三成くんがどんなに心配したかわかっているね」
息を切らしながら、狸が説教を始めます。左近は、しょんぼりとうなだれました。
「俺、伝言しましたよぉ……刑部さんに……」
「……あいつか……」
ため息と共に秀吉が呟きました。半兵衛が腰に手を当て、目をつり上げます。
「あのねえ、今は夏だよ。こたつは仕舞うものなの」
何で、物置にあるこたつに伝言頼むの、と半兵衛が説教をヒートアップさせかけましたが、三成がもじもじしてゆめきちに顔を埋めました。
「は、半兵衛さま……刑部に会いたくて、私はその……」
三成は、たどたどしく、仕舞われたこたつをこっそり引っ張り出したことを白状しました。
「……出ていたのはそういうわけか……」
疲れた目で、秀吉が遠くを見つめます。以前、廃棄も検討していましたから、何かあったのでしょう。しかし、サスケは詳しく知りたくありませんでした。知ったところで、あのこたつの精は、三成以外は暖めてくれないのです。
「こたつ布団はお日様に干して、畳んであります……」
目を潤ませ、三成はゆめきちに抱きついたまま、半兵衛の顔色を上目使いで伺いました。半兵衛が、三成の頭を撫でて笑顔になります。
「そうかい、それなら良いんだ。布団抜きなら、ただの机として使えるしね」
「使えるかなぁ?」
サスケは首をかしげました。今話題に上がっているこたつは、机の上に、こたつの精があぐらをかいているのです。性格のひねくれ曲がったおっさんが、あぐらをかいて占領している机で、何の書き物が出来るというのでしょう。
「三成の部屋の刑部に伝言を頼んだのであれば、左近に非はなかろう」
人選を誤ったことはミスになると思うのですが、秀吉がそう発言したことで、三成はあっさりと左近を見上げて言いました。
「帰るぞ、左近」
「待ってくださいよ、三成さま。この辺りに住む、ユッコロってのを見たいんスよ」
左近が首を横に振り、サスケは目を丸くしました。
「おやまァ、旦那に会いたいの?」
運悪く、沢の方へ転がり落ちていったばかりです。
「今、ちょっと用事でね」
いつ頃帰ってくるやら、とサスケは言いかけました。しかし、タケゾーの傍に武田菱が赤く浮かび上がるのを見つけ、言い直しました。
「帰ってきたよ」
ふははは、と笑いながら、ユッコロがくるくる回りながら武田菱の上に舞い降ります。
「旦那。お客さん」
声をかけると、ユッコロはちいちゃなおててをぴしっと上げ、「お久しゅうござるァアア!」と叫びました。
「へー、これが三成さまの友達かぁ」
ノーリアクションで、左近が珍しそうにユッコロを眺めますが、三成とユッコロは、その発言に眉を潜めました。
「何だと?」
「貴殿、何と申した?」
左近がまばたきして、困惑したように首をかしげます。
「何、って……三成さまの友達?」
三成とユッコロは、怪訝な顔で顔を見合わせました。
「……友達でござったか?」
「違うな」
実質、数えるほどしかあったことがないのです。一緒に遊んだこともありません。あるのは、家康に復讐したい三成と、家康を鍋の具にしたいユッコロの利害が一致したことだけです。
「嫌いじゃないでござるが、友達ではござらんな」
「知り合ったのは何ヵ月か前だ。一度訪ねたが、そのときも遊んだわけではないし」
ユッコロは以前、秀吉のお屋敷の玄関をぶっ壊しました。遊びに行くと、こたつの精が強請って来る恐れがあります。
一方、三成は一度来ましたが、ユッコロに会いに来たというよりは、冤罪をかけられ怒った家康が、ユッコロに文句を言いに来たのを、追いかけてきただけです。
小さい二人は、至極冷静に、「友人というほどではなく、ただの知人」と結論付けました。
「ところでみちゅなりどの、この御仁はみちゅなりどののご友人か」
さすがに気になったのでしょう。左近を見上げ、ユッコロが尋ねました。
「いや」
三成は首を横に振り、左近のふわふわ羽毛にほっぺたを寄せました。
「ペットだ」
「それ、本人目の前にして言っていい話?」
サスケが気遣いましたが、左近が照れたように笑いました。
「俺、売られたんスよ」
悲惨な台詞に聞こえましたが、色は紫で、との付け足しに、サスケは、縁日で三百円くらいか、と察しました。
「三成さまが買ってくれたんです。俺、その日から、三成さまについていくって決めたんです」
目をキラキラさせて、左近が感動で羽を震わせます。小さな声で、ユッコロが「かしわってうまいでござる」と三成に囁き、三成も頷いて、「だから買った」と答えていました。
左近が、目を細めて続けます。
「三成さまはお優しくて、俺が大きくなると、そろそろお前も城が必要だ、と別荘を下さったんです」
下で、ユッコロと三成がヒソヒソと話しています。「小さいときは雄雌分かりにくいから……雌かと……卵……」とか、「雄鶏の声って、結構でかくてうるさい……庭の秘密基地の小屋を巣箱に……」とか聞こえていましたが、サスケは今度も無視しました。
「そんなわけで、俺、三成さまのためなら何でもするんです! だから、友達を見てみようと」
三成のためなら何でもする、ということと、三成の友達を見る、ということが繋がりません。サスケがまばたきすると、左近は目を細め、明るく笑いました。
「俺が捌かれる前に!」
「すべて理解した上での忠心かよ!」
食われるのは承知済みで、慕っていたようです。まさに、家臣の鑑です。
かしわ、とユッコロがじゅるりとよだれを垂らします。三成も、タケゾーの鍋を見上げていましたが、秀吉が手を振りました。
「いや。左近を食ってはならぬ」
タケゾーも左近に興味を示さず、むしろ狸の尻尾を凝視しながら、鍋をかき回しています。
「な、なぜっ!? 俺はその為に拾われた筈じゃあ…」
左近が驚き、三成も尻尾を膨らませて、「秀吉さまは、かしわはお嫌いでしたか!?」と呆然としていました。
「……気づいていなかったのか? 左近は……」
秀吉は、眉間のシワをほぐしながら、左近を指しました。
「……観賞用だ」
沈黙が続きました。
三成も、当の左近も、目を丸くして口をぽっかり開けています。
半兵衛も、大きく頷きます。
「僕、品評会に参加申し込み、出しちゃったんだよね。だから、早く帰るよ」
わざわざ狸まで探しに来たのは、三成が心配、というだけではなかったようです。
「はいっ!」
三成は元気よく返事をして、呆然としている左近の首元に抱きつきました。フワフワ羽毛で、尻尾しか見えなくなりましたが、声だけは聞こえました。
「よかった」
頑張って育てた鶏を食べることに、少しは抵抗があったのでしょう。
秀吉と半兵衛が、山を降りていきます。
早くおいで、と声をかけられ、三成は羽毛から顔を出すと、ユッコロに手を振りました。
「さらばだ」
それから、見事なジャンプで左近の背中に着地します。
「じゃあ、邪魔しましたね、三成さまのお知り合いと、兄さん」
大好きな三成を背中に乗せて、艶やかに長い尾羽を揺らしながら、左近がおしりをフリフリ帰っていきます。観賞用じゃなくても、三成が可愛がっているのだから食べない、と秀吉は言いそうな気がしました。
「かしわが……」
ユッコロが残念そうに崩れ落ち、サスケは首を横に振りました。
「あの鳥、あんまり美味しくないってさ」
鶏には違いないのですから、美味しく食べられるでしょう。しかし、そういっておかないと、追いかけて捕獲しかねません。
じゅる、とよだれを垂らし、ユッコロがサスケを見つめます。色々と察したサスケは、飛んでいって、青いクマしっぽ肉をとってきてあげました。
「うまうまでござるぅう!」
ユッコロがお鍋の回りを跳ね回ります。甲斐のお山には心地よく、涼しい風が吹きわたります。いずれ、厳しい冬が来るでしょう。それまでの間サスケは、湯気の当たらないところに、夏用の巣を作る計画を練るのでした。
終
「旦那、元気だねぇ」
冬は雪深い甲斐のお山も、夏場は様々な植物が生い茂っています。そして、蒸し暑い空気に含まれる湿気は、サスケの羽を濡らしていくのです。サスケはせっせと毛繕いしながら、小さく呟きました。
「この、クソ暑いのに……」
燃えあがれぇえしゃしゅけぇえ、などと、暑苦しく走り回るユッコロのそばで、タケゾーが鍋をかき回しています。お鍋の向こうにいるタケゾーは、鍋の湯気で、ゆらゆら揺れて見えました。
鍋は暑いよ、と進言するのですが、鍋を指し示されて終了です。長い付き合いで、味噌を入れろと指示したのを察し、ぶつくさいいながらも入れてしまうのがいけないのでしょうか。
「何をだらけているかぁ、サスケぇ!」
ユッコロが投げるものを避けるのも面倒くさいほどの暑さです。しかし、横着をして避けずにいると、毒々しい色をしたキノコを投げてくるので、しっかり避けなければなりません。
「旦那は、暑くないの?」
「暑くなど無い!」
何故ならばこの魂、熱く燃えたぎっているからぁああああ、とさらに暑苦しく雄叫びをあげながら木の根っこにすっ転び、ユッコロはころころと転がって、木々の向こうに見えなくなってしまいました。
「あーらら。ま、向こうには沢があるから、少しは冷やせるね」
もう少ししたら、俺も行こうかな、と呟きながら、サスケは毛繕いの続きに勤しんでいました。
しばらくして、がさがさと草むらが動き、赤いものが視界に入りました。ユッコロが帰ってきたのでしょう。
「早かったね。お帰り」
サスケは見下ろして、まばたきしました。
立派な鶏冠の雄鶏が、草むらの中から鋭い眼差しで、サスケを見上げているのです。木の上からさしはかるに、タケゾーより一回り小さいくらいでしょうか。ユッコロをのせて走れそうなくらい、大きくて立派です。
りりしく威厳のある風体の雄鶏は、サスケを睨み付けたまま、くちばしを開きました。
「ちゃーす」
今のは何だ、とサスケはまばたきしました。
「あ、聞こえなかった? 実はジイちゃんですかね。ちゃーす」
年若い声と口調はあっているのですが、それが、目の前の厳かな雰囲気の雄鶏から聞こえてくるのは、違和感しかありません。
「……こんちは」
挨拶し返すと、雄鶏は茂みの中から出てきました。光沢のある茶色の羽毛や、艶やかに黒く長い尻尾が実に見事です。厳格さを兼ね備えた、芸術的な美しさの雄鶏ですが、口調がすべてを台無しにしていました。
「ここ、涼しくていいねぇ」
お前正気か、と言いかけたサスケに、チャラ鶏は続けました。
「高台だけあって、涼しくていい風だよ。沢も近いし、マジ最高」
目を細め、羽を広げてから、チャラ鶏は怪訝な口調でサスケを見上げました。
「ねえ。煮えたぎる鍋の上って、熱くないスか」
サスケは毛繕いをやめて、真下を見ました。タケゾーのかき回す鍋の湯気が、真上にいるサスケに当たっています。毛繕いをいくらしても、湿気てしまうわけがようやくわかりました。
「あっ、さては修行!? パネェ、かっけー!」
気づかなかっただけだったのですが、いつの間にか気に入られた様子です。
「えーと。どこから来たの?」
聞きながら枝を変えると、高原の涼しい風が羽毛を撫でていきました。
「俺は……」
チャラ鶏が説明する前に、さこーん、と声が響きました。
「左近、そこにいたか!」
ふわふわの尻尾を持つ子狐、三成がゆめきちを抱えて走ってきます。その少し後ろから、大きなお猿が狸を気遣いながら歩いて来るのが見えました。
「左近、なぜ勝手に出奔したのだ! 裏切りに値するぞ!!」
口を尖らせ、拗ねたように三成が続けます。
「私が裏切りを憎んでいると知っての狼藉か!?」
「あれ、三成さま。俺、三成さまの友達に会いに行きますって伝言残しましたよ」
おっかしいなぁ、と左近が首をかしげます。追い付いてきたお猿こと秀吉が、目を細めました。
「我は聞いていないぞ。半兵衛はどうだ」
「僕も初耳だよ、秀吉。左近くん、三成くんがどんなに心配したかわかっているね」
息を切らしながら、狸が説教を始めます。左近は、しょんぼりとうなだれました。
「俺、伝言しましたよぉ……刑部さんに……」
「……あいつか……」
ため息と共に秀吉が呟きました。半兵衛が腰に手を当て、目をつり上げます。
「あのねえ、今は夏だよ。こたつは仕舞うものなの」
何で、物置にあるこたつに伝言頼むの、と半兵衛が説教をヒートアップさせかけましたが、三成がもじもじしてゆめきちに顔を埋めました。
「は、半兵衛さま……刑部に会いたくて、私はその……」
三成は、たどたどしく、仕舞われたこたつをこっそり引っ張り出したことを白状しました。
「……出ていたのはそういうわけか……」
疲れた目で、秀吉が遠くを見つめます。以前、廃棄も検討していましたから、何かあったのでしょう。しかし、サスケは詳しく知りたくありませんでした。知ったところで、あのこたつの精は、三成以外は暖めてくれないのです。
「こたつ布団はお日様に干して、畳んであります……」
目を潤ませ、三成はゆめきちに抱きついたまま、半兵衛の顔色を上目使いで伺いました。半兵衛が、三成の頭を撫でて笑顔になります。
「そうかい、それなら良いんだ。布団抜きなら、ただの机として使えるしね」
「使えるかなぁ?」
サスケは首をかしげました。今話題に上がっているこたつは、机の上に、こたつの精があぐらをかいているのです。性格のひねくれ曲がったおっさんが、あぐらをかいて占領している机で、何の書き物が出来るというのでしょう。
「三成の部屋の刑部に伝言を頼んだのであれば、左近に非はなかろう」
人選を誤ったことはミスになると思うのですが、秀吉がそう発言したことで、三成はあっさりと左近を見上げて言いました。
「帰るぞ、左近」
「待ってくださいよ、三成さま。この辺りに住む、ユッコロってのを見たいんスよ」
左近が首を横に振り、サスケは目を丸くしました。
「おやまァ、旦那に会いたいの?」
運悪く、沢の方へ転がり落ちていったばかりです。
「今、ちょっと用事でね」
いつ頃帰ってくるやら、とサスケは言いかけました。しかし、タケゾーの傍に武田菱が赤く浮かび上がるのを見つけ、言い直しました。
「帰ってきたよ」
ふははは、と笑いながら、ユッコロがくるくる回りながら武田菱の上に舞い降ります。
「旦那。お客さん」
声をかけると、ユッコロはちいちゃなおててをぴしっと上げ、「お久しゅうござるァアア!」と叫びました。
「へー、これが三成さまの友達かぁ」
ノーリアクションで、左近が珍しそうにユッコロを眺めますが、三成とユッコロは、その発言に眉を潜めました。
「何だと?」
「貴殿、何と申した?」
左近がまばたきして、困惑したように首をかしげます。
「何、って……三成さまの友達?」
三成とユッコロは、怪訝な顔で顔を見合わせました。
「……友達でござったか?」
「違うな」
実質、数えるほどしかあったことがないのです。一緒に遊んだこともありません。あるのは、家康に復讐したい三成と、家康を鍋の具にしたいユッコロの利害が一致したことだけです。
「嫌いじゃないでござるが、友達ではござらんな」
「知り合ったのは何ヵ月か前だ。一度訪ねたが、そのときも遊んだわけではないし」
ユッコロは以前、秀吉のお屋敷の玄関をぶっ壊しました。遊びに行くと、こたつの精が強請って来る恐れがあります。
一方、三成は一度来ましたが、ユッコロに会いに来たというよりは、冤罪をかけられ怒った家康が、ユッコロに文句を言いに来たのを、追いかけてきただけです。
小さい二人は、至極冷静に、「友人というほどではなく、ただの知人」と結論付けました。
「ところでみちゅなりどの、この御仁はみちゅなりどののご友人か」
さすがに気になったのでしょう。左近を見上げ、ユッコロが尋ねました。
「いや」
三成は首を横に振り、左近のふわふわ羽毛にほっぺたを寄せました。
「ペットだ」
「それ、本人目の前にして言っていい話?」
サスケが気遣いましたが、左近が照れたように笑いました。
「俺、売られたんスよ」
悲惨な台詞に聞こえましたが、色は紫で、との付け足しに、サスケは、縁日で三百円くらいか、と察しました。
「三成さまが買ってくれたんです。俺、その日から、三成さまについていくって決めたんです」
目をキラキラさせて、左近が感動で羽を震わせます。小さな声で、ユッコロが「かしわってうまいでござる」と三成に囁き、三成も頷いて、「だから買った」と答えていました。
左近が、目を細めて続けます。
「三成さまはお優しくて、俺が大きくなると、そろそろお前も城が必要だ、と別荘を下さったんです」
下で、ユッコロと三成がヒソヒソと話しています。「小さいときは雄雌分かりにくいから……雌かと……卵……」とか、「雄鶏の声って、結構でかくてうるさい……庭の秘密基地の小屋を巣箱に……」とか聞こえていましたが、サスケは今度も無視しました。
「そんなわけで、俺、三成さまのためなら何でもするんです! だから、友達を見てみようと」
三成のためなら何でもする、ということと、三成の友達を見る、ということが繋がりません。サスケがまばたきすると、左近は目を細め、明るく笑いました。
「俺が捌かれる前に!」
「すべて理解した上での忠心かよ!」
食われるのは承知済みで、慕っていたようです。まさに、家臣の鑑です。
かしわ、とユッコロがじゅるりとよだれを垂らします。三成も、タケゾーの鍋を見上げていましたが、秀吉が手を振りました。
「いや。左近を食ってはならぬ」
タケゾーも左近に興味を示さず、むしろ狸の尻尾を凝視しながら、鍋をかき回しています。
「な、なぜっ!? 俺はその為に拾われた筈じゃあ…」
左近が驚き、三成も尻尾を膨らませて、「秀吉さまは、かしわはお嫌いでしたか!?」と呆然としていました。
「……気づいていなかったのか? 左近は……」
秀吉は、眉間のシワをほぐしながら、左近を指しました。
「……観賞用だ」
沈黙が続きました。
三成も、当の左近も、目を丸くして口をぽっかり開けています。
半兵衛も、大きく頷きます。
「僕、品評会に参加申し込み、出しちゃったんだよね。だから、早く帰るよ」
わざわざ狸まで探しに来たのは、三成が心配、というだけではなかったようです。
「はいっ!」
三成は元気よく返事をして、呆然としている左近の首元に抱きつきました。フワフワ羽毛で、尻尾しか見えなくなりましたが、声だけは聞こえました。
「よかった」
頑張って育てた鶏を食べることに、少しは抵抗があったのでしょう。
秀吉と半兵衛が、山を降りていきます。
早くおいで、と声をかけられ、三成は羽毛から顔を出すと、ユッコロに手を振りました。
「さらばだ」
それから、見事なジャンプで左近の背中に着地します。
「じゃあ、邪魔しましたね、三成さまのお知り合いと、兄さん」
大好きな三成を背中に乗せて、艶やかに長い尾羽を揺らしながら、左近がおしりをフリフリ帰っていきます。観賞用じゃなくても、三成が可愛がっているのだから食べない、と秀吉は言いそうな気がしました。
「かしわが……」
ユッコロが残念そうに崩れ落ち、サスケは首を横に振りました。
「あの鳥、あんまり美味しくないってさ」
鶏には違いないのですから、美味しく食べられるでしょう。しかし、そういっておかないと、追いかけて捕獲しかねません。
じゅる、とよだれを垂らし、ユッコロがサスケを見つめます。色々と察したサスケは、飛んでいって、青いクマしっぽ肉をとってきてあげました。
「うまうまでござるぅう!」
ユッコロがお鍋の回りを跳ね回ります。甲斐のお山には心地よく、涼しい風が吹きわたります。いずれ、厳しい冬が来るでしょう。それまでの間サスケは、湯気の当たらないところに、夏用の巣を作る計画を練るのでした。
終
#
by oyakatasamah
| 2015-09-11 23:15
悟空は同級生から遊びに誘われた。
孫もいる年齢で、小学生と遊ぶのはいかがなものか。しかし、仲良くなっておかないと、クラス内での立場に困る。たまには遊ぶか、と悟空は考えた。
大人は計算高いものなのだ。
遊ぶ、と頷くと、何故か近くの公園で砂場遊びをすることが決定されていた。
遊び始めていつのまにか、深い穴を掘れば勝ちというルールができていた。形だけの参加であったはずが、尻尾まで砂まみれになり、すっかり夢中になっていた。結構掘った、と満足して穴から顔を出すと、同じ顔が二つ、悟空を見下ろしていた。
バーダックとターレスである。二人とも、戦闘服ではなく地球人の格好をしていた。そのため、視界に入っていたのに、気づかなかった。
「何してんだお前?」
純粋に疑問だったらしい。怪訝な顔で、ターレスが尋ねた。悟空にそっくりである上、親しそうな様子から、同級生は悟空の親戚と判断したようだ。
「穴掘ってるの!」
と、元気よく答えた。
「そりゃ見れば分かる。何のためにやってんのか、聞いてんだよ」
目的を聞かれると困る。返答に詰まると、先程とは別の同級生が答えた。
「勝つためだよ!」
ふぅむ、とバーダックが顎に手をやった。
「罠作りか」
完全に誤解している様子である。
「馬ッ鹿じゃねえの」
ターレスが呆れたように肩を竦めた。彼は余計なところで察しが良い。
バレたか、と悟空は諦めて、遠い目になった。子供と同じレベルではしゃいでいたのだ。心に傷を負うレベルの言葉の暴力が来る。
しかし、ターレスが砂場を見渡し、首を横に振った。
「こんなところにたくさん作っても意味ねえだろ。一個にしとけ」
そうだな、とバーダックが大きく頷いた。
「ここなら、一個だな」
子供たちが目を輝かせ、どこにー? と尋ねる。バーダックとターレスは、同時に指さした。
滑り台の、着地地点である。
「罠は獲物の動線上に作れ」
公園のルール的に、そこはいかがなものか。しかし、大人が言ったことで、子供たちが素直に掘り始める。
「なあ……誰かはまったら、大変じゃねえか?」
一応尋ねてみたが、ターレスが鼻で笑った。
「お得意のお情けか? 小さくて弱い奴を除外するなら、強度の強い蓋にすれば良いだろ」
そういうことではない。しかし、もう皆、掘り始めている。一人だけ作らないというのも角が立つ。
あとで埋めよう、と考えながら、一緒に掘ることにした。
悟空が手伝ったこともあり、わずか五分ほどで大人の腰くらいまでの深さになった。
「クソガキども、仕上げだ」
ターレスが砂場に薄い板を投げる。ふらりとどこかに行っていたから、拾ったか作ったかしたのだろう。普段だらだらしているくせに、こういう時には、信じられないほどの行動力を見せる。
一方、バーダックは近くのベンチに座り、足を組んで暇そうに悟空を眺めていた。
「よし。土をかけろ」
板で蓋をして、土を被せる。
「出た土は、砂場全体に撒け。綺麗にならしすぎるな」
命令しかしないが、子供たちが素直に従う。さすが軍団を率いていただけはある、と悟空は感心した。
あっという間に、落とし穴がどこにあったかわからなくなった。
「上出来だ」
ターレスが満足げに頷くが、彼がしたのは穴を隠す板を持ってきたことだけである。
「この近くにいたらばれる、散れ散れ」
一種の達成感と期待を胸に、子供たちが思い思いの遊具に散っていく。
同級生たちが分散したことで、どこに行こうか悟空が考えあぐねていると、良く知る気配がして、声が聞こえた。
「あ、やっぱりターレスさんだ。何やってんの?」
悟天が公園の入り口で手を振り、近づいてくる。その少し後ろに、トランクスが辺りを見渡しながらついてきていた。
「子供と遊んでたの? はは、見てよ。この子なんて、父さんそっくり」
悟天は悟空に近づくと抱えあげて、トランクスに見せた。トランクスが気まずそうな顔をして、遠慮がちに呟く。
「本物に見えるけど……」
悟天は、ははっと乾いた笑いを浮かべた。そっと地面に悟空を下ろしてから、深くため息をつく。
「いい年をして、まぁ、よくやる……」
うっ、と悟空は膝をついた。思わぬ相手からのクリティカルヒット。
「でも、気持ちは分かるよ」
トランクスが笑い、そわそわしながら滑り台を指した。
「僕も、滑ってきて良いかな」
「えー? 止めなよ、恥ずかしいよ」
悟天が止める。しかし、トランクスは「そうかな」と少し乗り気のままだ。
悟空は迷った。
恥ずかしいよ、と、止めてやるべきであるとわかっている。罠があるのを知っているのだ。
しかし一方で、トランクスなら怪我もしないし、怒ってもたかが知れている。努力の結晶が実る瞬間を見たい、という誘惑が生まれていた。
迷ったのは一瞬で、悟空は、「おら、恥ずかしくねぇと思うな」と、拳を握った。
「そうですか?」
トランクスが、滑り台に登る。悟天が、「気を付けて。父さん信用したら、ろくなことがない」と冷静な声で止めた。
「そうかなあ。悟空さんは信用できるよ」
「父さんは瞬間移動できるくせに、遅刻するよ」
これっぽっちも約束守る気ないダメ人間だ、と実の息子が断じる。悪気はなく、純粋にそう思っているから言っているのが、心に刺さる。
「一回だけだから」
「止めなよ、絶対後悔する。だって、父さんに加えてターレスさんがいるんだよ。不安要素しかないって」
勘の鋭さは誰に似たのやら。それとも信用がないだけなのか。
「何だよ、馬鹿にしやがって。滑りたきゃ滑れ」
ターレスが目をつり上げて腕組みしたが、口元がにやけていた。内心は、早く滑れと叫んでいるに違いない。
獲物は、滑り台の上に座った。
「俺は止めたからね。もう一度言うよ、父さんを信用したら後悔するから」
再三の警告を受け、トランクスは困ったように悟空を見た。迷っているらしい。ここで悟空が止めるように言えば、本当に止めてしまうだろう。
悟空は、ニコッと笑った。
「結構楽しいぞ」
迷いは、無かった。
頷いて、トランクスが滑る。子供からすれば長い滑り台だが、大人ではあっという間だ。
次の瞬間、大きな音がして、トランクスは目を丸くして固まっていた。腰から下がすっぽり、砂場の中に埋もれている。
「イェーイ」
達成感と一体感でいっぱいになり、思わずターレスとハイタッチした。遊具のあちこちから子供たちが集まってくる。
「ほーら、言わんこっちゃない」
トランクスは放心していたが、悟天に声をかけられると我に帰ったようにまばたきし、それから手で顔を覆った。
「……は、恥ずかしい……」
ターレスが手を叩いて笑い、ばーか、と喜ぶ。しかし、恥ずかしさのあまり耳まで真っ赤にして、泣き出しそうなトランクスの様子に、作った子供たちは気まずそうに顔を見合わせた。
「大丈夫?」
悟天がトランクスに手を伸ばした。トランクスは一瞬驚いた顔をしてから、その手を掴んだ。悟天が片手で、軽々と引き上げる。
「ありがとう」
その、泣き笑いのような表情に、悟空は違和感を覚えた。
「君らが作ったの?」
悟天が手を腰に当て、子供たちを見下ろした。
「ごめんなさいは?」
ごめんなさい、と子供たちが口々に謝る。トランクスは、慌てたように手を振った。
「い、いや、僕が油断してたのが悪いんだ」
いたたまれなくなったのか、トランクスは真っ赤なままの顔を手で扇ぎ、そそくさと公園から出ていった。
「ちゃんと後片付けしてよ」
悟天が悟空に言い残し、後を追って公園を去っていく。二人がいなくなっても、反省の言葉が交わされる中、一人ターレスだけは、「あいつ泣きそうだったな!」と満面の笑みを浮かべていた。
「ダメなおとななんだね」
「そうだね」
ターレスを見上げ、同級生たちが頷く。そして、数人が、口を揃えて「悟空くんに似てるね」と言った。
姿の事だとわかっていても、心の奥をつき刺されたような感覚に襲われたのだった。
※※※※※
穴を埋めて帰ると、トランクスが湯気を立てて座っていた。ブカブカの服を着、長い裾を折り曲げている。
「ひどいじゃないですか」
悟空に気づいたトランクスが立ち上がり、悟空の前にしゃがんで、ほっぺたをふにふにした。
「あんなことするなんて」
柔らかい口調だが、目が笑っていない。すまねえ、と謝ったが、同罪のターレスは謝るそぶりも見せなかった。
「引っ掛かる方が悪い」
ソファに座り、ソファの背に肘を乗せて笑う。トランクスが眉間に皺を寄せたその時、玄関から悟飯の声がした。
「ただいま」
悟飯は入ってくるなり、トランクスを見ると目を丸くした。
「どうしたんだ、トランクス。僕のお古なんか着て」
「えっ?」
トランクスは着ている服を見下ろしてから、髪をかきあげて立ち上がった。そのまま、口元を緩め、無言で椅子に腰かける。
「父さんが作った落とし穴にトランクスが落ちたんだ。それで、風呂に入って着替えてもらった。兄ちゃんがこっちに置いてる服、借りたよ」
台所から出てきた悟天が説明し、悟飯は頷いた。
「ああ、それはいいけど……落とし穴?」
トランクスが再び耳まで真っ赤になり、机に突っ伏した。
「そう。滑り台の下に作ったんだよ。トランクスが引っ掛かったら、大はしゃぎだ」
「悟天」
悟飯は静かな声を出し、悟天は「無いよ」と首を横に振った。よくわからないが、何かの情報交換がなされたらしい。
「そうか……」
落胆した声で悟飯が呟き、腰に手を当てた。
「で、わざわざ未来から来るなんて、何か事件かい?」
悟空は、尻尾がぼふっと膨らんだのが、自分でもわかった。
「おめぇ、未来トランクスか!」
悟天に遠慮がちなところも、公園でやたら興奮していたところも、悟空の良く知るトランクスとは違っていた。だから、何となく違和感があったのだ。
「事件はあったんですが、来たら解決していたので……ただ来ただけ、ですね」
照れたように頭をかいてから、トランクスは深くため息をついた。
「意味もなく来て、落とし穴にはまって帰るだけ、とは……我ながら、情けないです」
哀愁漂うその姿に、悟空は謝るしかなかった。
「す、すまねぇ……」
「いえ、良いこともありましたし、お気になさらず」
トランクスは両手を振り、口元を緩ませて袖を眺めた。そして、悟飯がバーダックに呼ばれ死角に入った瞬間、嬉しそうに袖を鼻に当てた。しっかり見てしまった悟空は驚いて尻尾を膨らませたが、見なかったフリをして、尻尾を撫で付けた。
「トランクス」
バーダックと話をしていた悟飯は、トランクスを呼んだ。
「はい」
驚いたように肩を震わせ、トランクスが返事する。悟飯はトランクスに近づくと、穏やかな笑みを浮かべて頭を撫でた。
「よくやった」
何故か誉められている。トランクスの頭を撫でて、悟飯は見慣れないケータイを手に部屋を出ていった。
悟天が納得したように、「そうか、じいちゃんが動画撮ってたのか……」と頷いたが、悟空には悟飯が上機嫌になった理由がわからなかった。
悟空と同じく、撫でられたことに驚いて固まっていたトランクスは、悟飯を見送ったあと、悟空を見下ろした。
視線がぶつかり合う。何かを理解したらしく、トランクスは一瞬目を見開いてから、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます!」
その頬は桜色に染まり、目がキラキラと潤んでいる。
何でおらにお礼言うんだろう、と、悟空は尻尾をちょぴり下げたのだった。
次の日、未来トランクスが帰った後、悟空は悟天に抱いた疑惑を確認しようとした。
しかし、何と表現して、尋ねれば良いのだろう、と悟空は悩んだ。
自分の服ではなく、わざわざ悟飯の服を貸した辺り、悟天も気づいているのかもしれない。
しかし、悟飯が気づかないのに、悟天が気づくだろうか。悟飯と悟天、頭の具合が悟空にそっくりなのは悟天、とチチの評価が下っている。
もっと言えば、ただの勘違いかもしれないのだ。余計な疑惑を吹き込むことで、悟天と未来トランクスの仲が気まずいことになりかねない。
さらに、そうだったとしても、未来トランクスが良い子であることに変わりはない。わざわざ確認することに、意味はあるだろうか。
好奇心と保身を打算し、頭を捻って考え抜いた結果、悟空は気づかなかったフリを継続することにしたのだった。
終
孫もいる年齢で、小学生と遊ぶのはいかがなものか。しかし、仲良くなっておかないと、クラス内での立場に困る。たまには遊ぶか、と悟空は考えた。
大人は計算高いものなのだ。
遊ぶ、と頷くと、何故か近くの公園で砂場遊びをすることが決定されていた。
遊び始めていつのまにか、深い穴を掘れば勝ちというルールができていた。形だけの参加であったはずが、尻尾まで砂まみれになり、すっかり夢中になっていた。結構掘った、と満足して穴から顔を出すと、同じ顔が二つ、悟空を見下ろしていた。
バーダックとターレスである。二人とも、戦闘服ではなく地球人の格好をしていた。そのため、視界に入っていたのに、気づかなかった。
「何してんだお前?」
純粋に疑問だったらしい。怪訝な顔で、ターレスが尋ねた。悟空にそっくりである上、親しそうな様子から、同級生は悟空の親戚と判断したようだ。
「穴掘ってるの!」
と、元気よく答えた。
「そりゃ見れば分かる。何のためにやってんのか、聞いてんだよ」
目的を聞かれると困る。返答に詰まると、先程とは別の同級生が答えた。
「勝つためだよ!」
ふぅむ、とバーダックが顎に手をやった。
「罠作りか」
完全に誤解している様子である。
「馬ッ鹿じゃねえの」
ターレスが呆れたように肩を竦めた。彼は余計なところで察しが良い。
バレたか、と悟空は諦めて、遠い目になった。子供と同じレベルではしゃいでいたのだ。心に傷を負うレベルの言葉の暴力が来る。
しかし、ターレスが砂場を見渡し、首を横に振った。
「こんなところにたくさん作っても意味ねえだろ。一個にしとけ」
そうだな、とバーダックが大きく頷いた。
「ここなら、一個だな」
子供たちが目を輝かせ、どこにー? と尋ねる。バーダックとターレスは、同時に指さした。
滑り台の、着地地点である。
「罠は獲物の動線上に作れ」
公園のルール的に、そこはいかがなものか。しかし、大人が言ったことで、子供たちが素直に掘り始める。
「なあ……誰かはまったら、大変じゃねえか?」
一応尋ねてみたが、ターレスが鼻で笑った。
「お得意のお情けか? 小さくて弱い奴を除外するなら、強度の強い蓋にすれば良いだろ」
そういうことではない。しかし、もう皆、掘り始めている。一人だけ作らないというのも角が立つ。
あとで埋めよう、と考えながら、一緒に掘ることにした。
悟空が手伝ったこともあり、わずか五分ほどで大人の腰くらいまでの深さになった。
「クソガキども、仕上げだ」
ターレスが砂場に薄い板を投げる。ふらりとどこかに行っていたから、拾ったか作ったかしたのだろう。普段だらだらしているくせに、こういう時には、信じられないほどの行動力を見せる。
一方、バーダックは近くのベンチに座り、足を組んで暇そうに悟空を眺めていた。
「よし。土をかけろ」
板で蓋をして、土を被せる。
「出た土は、砂場全体に撒け。綺麗にならしすぎるな」
命令しかしないが、子供たちが素直に従う。さすが軍団を率いていただけはある、と悟空は感心した。
あっという間に、落とし穴がどこにあったかわからなくなった。
「上出来だ」
ターレスが満足げに頷くが、彼がしたのは穴を隠す板を持ってきたことだけである。
「この近くにいたらばれる、散れ散れ」
一種の達成感と期待を胸に、子供たちが思い思いの遊具に散っていく。
同級生たちが分散したことで、どこに行こうか悟空が考えあぐねていると、良く知る気配がして、声が聞こえた。
「あ、やっぱりターレスさんだ。何やってんの?」
悟天が公園の入り口で手を振り、近づいてくる。その少し後ろに、トランクスが辺りを見渡しながらついてきていた。
「子供と遊んでたの? はは、見てよ。この子なんて、父さんそっくり」
悟天は悟空に近づくと抱えあげて、トランクスに見せた。トランクスが気まずそうな顔をして、遠慮がちに呟く。
「本物に見えるけど……」
悟天は、ははっと乾いた笑いを浮かべた。そっと地面に悟空を下ろしてから、深くため息をつく。
「いい年をして、まぁ、よくやる……」
うっ、と悟空は膝をついた。思わぬ相手からのクリティカルヒット。
「でも、気持ちは分かるよ」
トランクスが笑い、そわそわしながら滑り台を指した。
「僕も、滑ってきて良いかな」
「えー? 止めなよ、恥ずかしいよ」
悟天が止める。しかし、トランクスは「そうかな」と少し乗り気のままだ。
悟空は迷った。
恥ずかしいよ、と、止めてやるべきであるとわかっている。罠があるのを知っているのだ。
しかし一方で、トランクスなら怪我もしないし、怒ってもたかが知れている。努力の結晶が実る瞬間を見たい、という誘惑が生まれていた。
迷ったのは一瞬で、悟空は、「おら、恥ずかしくねぇと思うな」と、拳を握った。
「そうですか?」
トランクスが、滑り台に登る。悟天が、「気を付けて。父さん信用したら、ろくなことがない」と冷静な声で止めた。
「そうかなあ。悟空さんは信用できるよ」
「父さんは瞬間移動できるくせに、遅刻するよ」
これっぽっちも約束守る気ないダメ人間だ、と実の息子が断じる。悪気はなく、純粋にそう思っているから言っているのが、心に刺さる。
「一回だけだから」
「止めなよ、絶対後悔する。だって、父さんに加えてターレスさんがいるんだよ。不安要素しかないって」
勘の鋭さは誰に似たのやら。それとも信用がないだけなのか。
「何だよ、馬鹿にしやがって。滑りたきゃ滑れ」
ターレスが目をつり上げて腕組みしたが、口元がにやけていた。内心は、早く滑れと叫んでいるに違いない。
獲物は、滑り台の上に座った。
「俺は止めたからね。もう一度言うよ、父さんを信用したら後悔するから」
再三の警告を受け、トランクスは困ったように悟空を見た。迷っているらしい。ここで悟空が止めるように言えば、本当に止めてしまうだろう。
悟空は、ニコッと笑った。
「結構楽しいぞ」
迷いは、無かった。
頷いて、トランクスが滑る。子供からすれば長い滑り台だが、大人ではあっという間だ。
次の瞬間、大きな音がして、トランクスは目を丸くして固まっていた。腰から下がすっぽり、砂場の中に埋もれている。
「イェーイ」
達成感と一体感でいっぱいになり、思わずターレスとハイタッチした。遊具のあちこちから子供たちが集まってくる。
「ほーら、言わんこっちゃない」
トランクスは放心していたが、悟天に声をかけられると我に帰ったようにまばたきし、それから手で顔を覆った。
「……は、恥ずかしい……」
ターレスが手を叩いて笑い、ばーか、と喜ぶ。しかし、恥ずかしさのあまり耳まで真っ赤にして、泣き出しそうなトランクスの様子に、作った子供たちは気まずそうに顔を見合わせた。
「大丈夫?」
悟天がトランクスに手を伸ばした。トランクスは一瞬驚いた顔をしてから、その手を掴んだ。悟天が片手で、軽々と引き上げる。
「ありがとう」
その、泣き笑いのような表情に、悟空は違和感を覚えた。
「君らが作ったの?」
悟天が手を腰に当て、子供たちを見下ろした。
「ごめんなさいは?」
ごめんなさい、と子供たちが口々に謝る。トランクスは、慌てたように手を振った。
「い、いや、僕が油断してたのが悪いんだ」
いたたまれなくなったのか、トランクスは真っ赤なままの顔を手で扇ぎ、そそくさと公園から出ていった。
「ちゃんと後片付けしてよ」
悟天が悟空に言い残し、後を追って公園を去っていく。二人がいなくなっても、反省の言葉が交わされる中、一人ターレスだけは、「あいつ泣きそうだったな!」と満面の笑みを浮かべていた。
「ダメなおとななんだね」
「そうだね」
ターレスを見上げ、同級生たちが頷く。そして、数人が、口を揃えて「悟空くんに似てるね」と言った。
姿の事だとわかっていても、心の奥をつき刺されたような感覚に襲われたのだった。
※※※※※
穴を埋めて帰ると、トランクスが湯気を立てて座っていた。ブカブカの服を着、長い裾を折り曲げている。
「ひどいじゃないですか」
悟空に気づいたトランクスが立ち上がり、悟空の前にしゃがんで、ほっぺたをふにふにした。
「あんなことするなんて」
柔らかい口調だが、目が笑っていない。すまねえ、と謝ったが、同罪のターレスは謝るそぶりも見せなかった。
「引っ掛かる方が悪い」
ソファに座り、ソファの背に肘を乗せて笑う。トランクスが眉間に皺を寄せたその時、玄関から悟飯の声がした。
「ただいま」
悟飯は入ってくるなり、トランクスを見ると目を丸くした。
「どうしたんだ、トランクス。僕のお古なんか着て」
「えっ?」
トランクスは着ている服を見下ろしてから、髪をかきあげて立ち上がった。そのまま、口元を緩め、無言で椅子に腰かける。
「父さんが作った落とし穴にトランクスが落ちたんだ。それで、風呂に入って着替えてもらった。兄ちゃんがこっちに置いてる服、借りたよ」
台所から出てきた悟天が説明し、悟飯は頷いた。
「ああ、それはいいけど……落とし穴?」
トランクスが再び耳まで真っ赤になり、机に突っ伏した。
「そう。滑り台の下に作ったんだよ。トランクスが引っ掛かったら、大はしゃぎだ」
「悟天」
悟飯は静かな声を出し、悟天は「無いよ」と首を横に振った。よくわからないが、何かの情報交換がなされたらしい。
「そうか……」
落胆した声で悟飯が呟き、腰に手を当てた。
「で、わざわざ未来から来るなんて、何か事件かい?」
悟空は、尻尾がぼふっと膨らんだのが、自分でもわかった。
「おめぇ、未来トランクスか!」
悟天に遠慮がちなところも、公園でやたら興奮していたところも、悟空の良く知るトランクスとは違っていた。だから、何となく違和感があったのだ。
「事件はあったんですが、来たら解決していたので……ただ来ただけ、ですね」
照れたように頭をかいてから、トランクスは深くため息をついた。
「意味もなく来て、落とし穴にはまって帰るだけ、とは……我ながら、情けないです」
哀愁漂うその姿に、悟空は謝るしかなかった。
「す、すまねぇ……」
「いえ、良いこともありましたし、お気になさらず」
トランクスは両手を振り、口元を緩ませて袖を眺めた。そして、悟飯がバーダックに呼ばれ死角に入った瞬間、嬉しそうに袖を鼻に当てた。しっかり見てしまった悟空は驚いて尻尾を膨らませたが、見なかったフリをして、尻尾を撫で付けた。
「トランクス」
バーダックと話をしていた悟飯は、トランクスを呼んだ。
「はい」
驚いたように肩を震わせ、トランクスが返事する。悟飯はトランクスに近づくと、穏やかな笑みを浮かべて頭を撫でた。
「よくやった」
何故か誉められている。トランクスの頭を撫でて、悟飯は見慣れないケータイを手に部屋を出ていった。
悟天が納得したように、「そうか、じいちゃんが動画撮ってたのか……」と頷いたが、悟空には悟飯が上機嫌になった理由がわからなかった。
悟空と同じく、撫でられたことに驚いて固まっていたトランクスは、悟飯を見送ったあと、悟空を見下ろした。
視線がぶつかり合う。何かを理解したらしく、トランクスは一瞬目を見開いてから、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます!」
その頬は桜色に染まり、目がキラキラと潤んでいる。
何でおらにお礼言うんだろう、と、悟空は尻尾をちょぴり下げたのだった。
次の日、未来トランクスが帰った後、悟空は悟天に抱いた疑惑を確認しようとした。
しかし、何と表現して、尋ねれば良いのだろう、と悟空は悩んだ。
自分の服ではなく、わざわざ悟飯の服を貸した辺り、悟天も気づいているのかもしれない。
しかし、悟飯が気づかないのに、悟天が気づくだろうか。悟飯と悟天、頭の具合が悟空にそっくりなのは悟天、とチチの評価が下っている。
もっと言えば、ただの勘違いかもしれないのだ。余計な疑惑を吹き込むことで、悟天と未来トランクスの仲が気まずいことになりかねない。
さらに、そうだったとしても、未来トランクスが良い子であることに変わりはない。わざわざ確認することに、意味はあるだろうか。
好奇心と保身を打算し、頭を捻って考え抜いた結果、悟空は気づかなかったフリを継続することにしたのだった。
終
#
by oyakatasamah
| 2015-05-30 19:38
| DB/短
朝、悟天がリビングに行くと、ソファに寝転んでいたターレスが怪訝な顔で起き上がった。
「何? なんかついてる?」
寝ている間、パンか悟空にいたずらされたかと顔をさわった。しかし、よく見るとターレスの視線は、悟天の服に注がれている。
「これ、学校指定のジャージだよ」
結構便利で、休みの日なんかにはパジャマになる。ズボンを叩いて見せると、ターレスは凝視したまま、口元に手をやった。
「ダッサ……」
「俺の趣味じゃないんだってば。学校で使うヤツ」
しかし、全く聞くそぶりもなく、ターレスは悟天を頭の先から爪先まで、じっくりと眺めてからもう一度、しみじみと呟いた。
「マジで、だっせぇ……」
黒パンをはいてナマ足を晒す男には言われたくない。
「ターレスさんだって、良い年でナマ足じゃん」
怒るかと思いきや、ターレスは口の端を曲げて笑い、足を高く伸ばして見せた。
「似合うだろ?」
父と同じ顔の癖に、父にはない妙な色気がある。確かに、似合ってはいた。
「まぁね」
頷き、悟天は台所に入って冷蔵庫を開けた。麦茶を取り出して注ぎ、戻してからターレスを見ると、未だ見ていた。
「だっせぇ」
今度は、深いため息つきである。
「しつこいなぁ。そりゃあ、おしゃれとは言わないけどさ、家で着る分にはいいじゃんか」
ポケットに手を突っ込んで見せると、ターレスは腕組みして眺めてきた。
「いや、壊滅的にヤバイ。それがマトモと考えてる、お前のセンスを疑う」
口元がにやけている。格好がダサいと半分くらいは認めたことで、イジリにシフトすることに決めたようだ。
「スーパーくらいには行ける格好だよ」
「いーや、行けないね。それで急な来客とか、誰かに見られたら引きこもるね」
「止めてってば。怒るよ」
嫌がると、大喜びでエスカレートする。頭でわかっているが、ついつい嫌な顔をしてしまい、ターレスがソファから身を乗り出して満面の笑みを浮かべた。
「怒れよ、ダサ男。事実を言った俺様を殴ってみろよ」
悟天はターレスより強いのだが、完全になめられている。イラッとしたのが伝わったのか、ターレスは尻尾をくねらせ、頬を上気させて笑い声をあげた。楽しそうな顔は悟空そっくりだから、また始末に悪い。
「怒った姿もだっせぇなぁ」
ターレスが身を乗り出しているソファの向こうから、バーダックの声がする。
「うるせぇぞターレス」
入ってきたのを見なかったから、最初からいたらしい。ターレスが、悟天の格好がダサいと騒いでいるのに、一瞬だけでも見ようとしない辺り、本気でどうでも良いらしかった。
「なぁおっさん、すげぇぞ、ダサいを体現してんだ」
ぷふぅーっ、とターレスが吹き出し、ばしばしと尻尾が動いた。バーダックがいつものように、ソファに寄りかかっているらしい。
「うるッせぇな」
バーダックのイラついた声がして、ソファの端からちらっと顔が見えた。眉間に皺を寄せた表情のまま、無言で戻る。
何の反応もなかったことにちょっぴり傷ついた心を、ターレスが抉りにかかる。
「ひー、フォローできねぇくらいだっせぇってか!」
満面の笑みで、心底嬉しそうなのがムカつく。悟天は声をあらげた。
「ち、地球では、そんなに恥ずかしくないって!」
ますます調子に乗るだけだった。呼吸困難になりそうなくらい大笑いし、だっせぇええ、とターレスが吹き出す。
「んもぅ!」
本気で怒ろうかな、と拳を握ったとき、肌に突き刺さるような冷気を感じた。背中の産毛が逆立つ感覚に息をのみ、辺りを見渡すと、背後のドアが開く音がした。
無言で入ってきたのは、微笑みを浮かべた兄だった。
ターレスは気づいていない様子だ。無理もない。普段なら、隠していても分かる兄の気が、全く感じなかった。その事実に恐怖を抱き、悟天は指一本動かせないまま、横を通りすぎてソファの前に立つ兄を見つめた。
「それね。僕の、お下がりなんですよ」
眼鏡で表情が読めない。悟飯が至近距離にいることにようやく気づき、ターレスが固まった。
一秒ごと、血の気が引いていくのが見える。気が読めないターレスにも、ヤバイということが本能的にわかったらしい。完全に真っ青になって、唇を舐めた。
「言い残すことは?」
顔が恐怖でひきつり、尻尾が膨らんで、指先が震えている。それでも、ターレスは無様な命乞いをしなかった。
「あの格好は、ダサい」
声は震えて掠れていたし、ちょっぴり泣いているように見えた。しかし、限界を越えた恐怖に打ち勝ち、自分を曲げず、ぶつかっていったことに悟天は感嘆した。
「マジで無いわ」
ターレスが付け加え、大気が揺れた。咆哮したわけでも、動いたわけでもない。ただ、怒りが渦のように大気に満ちた。色のついた気が、悟飯の回りに集まっていく。
終わりだ。
ターレスも悟ったのか、尻尾をブルブル震わせて、目を瞑っていた。
ソファによりかかっているはずの、バーダックの声がしない。巻き込むなよ位は警告しないと、間違えて一緒に消されてしまうのではないか、と悟天は不安になった。
尋常ではない緊迫感に満ちた部屋に、場違いな軽い足音が近づいてきた。
「ねえねえ、みんな聞いて。なんと今日は特売日だったの! ごちそう作るわね」
嬉しそうなビーデルの声がリビングに響く。そのまま、ビーデルはいそいそと台所に大荷物を置くと、悟天に気づいて手を口元にやった。
「やだ悟天君、それ学校のジャージじゃない。懐かしいわ」
手際よく野菜を取りだし、洗いながら、クスクスと笑う。
「そのジャージ、ダサいって不評だったのよ」
決定的な一言が、場を制した。
悟飯の回りに集まった気が霧散する。気は見えないまでも、殺気が消えたのを察したターレスが、まだ動けないまま静かに呟いた。
「俺様は、無罪だと思います」
震えてはいたが、その声は、確かな自信に満ち溢れていた。
未来が見えるバーダックは、ビーデルが来ることを見越して、何も言わなかったのだろう。さすが、抜け目ないな、と感心してソファを覗きこんでみた。
バーダックは、腕組みして寝息を立てていた。
「……寝てたの」
「ああ、さっきからこんな感じで、つまんねえ」
ターレスの声の調子が、戻りつつある。
単純に、眠すぎで状況を把握していないだけだったようだ。それでも、ターレスのウザ絡みに少しは答え、悟天をちら見した辺り、結構付き合いが良い。
「意外と丈夫なのよね、そのジャージ」
少なくとも一人の命を救った女神は、思い出したように笑い声をあげて続けた。
「そういえば、悟飯ったら、昔そのジャージで戦いに行ったのよ」
「ビーデル」
珍しく、悟飯が動揺したが、野菜を洗っているビーデルは気づかなかった。
「ええと、たしか、フリーザとか言う名前だったわね。そいつが来た時よ」
再び、緊張が走った。ターレスの頬を、汗が伝うのが見える。
「フリーザだと? う、宇宙の帝王の前に、これで行ったのかよ……」
「会うの四度目くらいの時にな」
珍しく、早口だ。悟天は、ふと思い出した。
「俺、その話は初耳だけどさ。たしかその前は、グレサイの格好でワンパンKOしたんだったよね。地獄がめちゃくちゃになったじゃん、あの時」
「マジかよ……あの格好でワンパンKOされるとか、もはや罰ゲームだろ……」
からかっているのではなく、本気で衝撃を受けているらしい。尻尾も、プルプルと震えている。
「あれ、そういえば何で、胴着とかグレサイじゃなくて、ジャージだったの?」
胴着、もしくはグレサイの格好で戦うことが多かったはずだ。
悟飯が答える前に、ビーデルが返事した。
「グレサイはね、パンがよだれでベタベタにしちゃって、全部洗濯してたのよ」
あははっ、と明るく笑うビーデルの横で、悟飯が「まあ、色々あるんだよ」と遠い目になった。
「マジかよ……帝王の前に行くのに、近所のスーパー感覚なのかよ。逆にすげぇわ」
ターレスが感心し、悟飯はさらに複雑な表情になった。
「しょうがないだろ」
「いや、あり得ない……ダサすぎるにも程がある……お前はサイヤ人だろ、もっと誇りを持てよ!」
ソファに突っ伏し、うわぁあと慟哭する。予想外の反応に、悟飯も面食らったようだった。
「わ、悪かったよ……」
珍しく、謝った。
悟天が目を丸くしていると、ターレスは顔をあげ、まっすぐ悟飯を見つめて冷静な声を出した。
「サイヤ人が皆、お前みたいにダサいと思われたら困るんだよな」
その表情と口調は、嫌味の要素は皆無で、純粋な本音だった。ただ、直球過ぎた。
一瞬の後に、ターレスが腹を抱えてうずくまっている。視界に入っていたはずなのに、ターレスの腹に拳がめり込むのが全く見えず、悟天は修行不足に危機感を覚えたのだった。
終
見慣れれば、ジャージ可愛いです。学校指定かどうかはわかりません。
「何? なんかついてる?」
寝ている間、パンか悟空にいたずらされたかと顔をさわった。しかし、よく見るとターレスの視線は、悟天の服に注がれている。
「これ、学校指定のジャージだよ」
結構便利で、休みの日なんかにはパジャマになる。ズボンを叩いて見せると、ターレスは凝視したまま、口元に手をやった。
「ダッサ……」
「俺の趣味じゃないんだってば。学校で使うヤツ」
しかし、全く聞くそぶりもなく、ターレスは悟天を頭の先から爪先まで、じっくりと眺めてからもう一度、しみじみと呟いた。
「マジで、だっせぇ……」
黒パンをはいてナマ足を晒す男には言われたくない。
「ターレスさんだって、良い年でナマ足じゃん」
怒るかと思いきや、ターレスは口の端を曲げて笑い、足を高く伸ばして見せた。
「似合うだろ?」
父と同じ顔の癖に、父にはない妙な色気がある。確かに、似合ってはいた。
「まぁね」
頷き、悟天は台所に入って冷蔵庫を開けた。麦茶を取り出して注ぎ、戻してからターレスを見ると、未だ見ていた。
「だっせぇ」
今度は、深いため息つきである。
「しつこいなぁ。そりゃあ、おしゃれとは言わないけどさ、家で着る分にはいいじゃんか」
ポケットに手を突っ込んで見せると、ターレスは腕組みして眺めてきた。
「いや、壊滅的にヤバイ。それがマトモと考えてる、お前のセンスを疑う」
口元がにやけている。格好がダサいと半分くらいは認めたことで、イジリにシフトすることに決めたようだ。
「スーパーくらいには行ける格好だよ」
「いーや、行けないね。それで急な来客とか、誰かに見られたら引きこもるね」
「止めてってば。怒るよ」
嫌がると、大喜びでエスカレートする。頭でわかっているが、ついつい嫌な顔をしてしまい、ターレスがソファから身を乗り出して満面の笑みを浮かべた。
「怒れよ、ダサ男。事実を言った俺様を殴ってみろよ」
悟天はターレスより強いのだが、完全になめられている。イラッとしたのが伝わったのか、ターレスは尻尾をくねらせ、頬を上気させて笑い声をあげた。楽しそうな顔は悟空そっくりだから、また始末に悪い。
「怒った姿もだっせぇなぁ」
ターレスが身を乗り出しているソファの向こうから、バーダックの声がする。
「うるせぇぞターレス」
入ってきたのを見なかったから、最初からいたらしい。ターレスが、悟天の格好がダサいと騒いでいるのに、一瞬だけでも見ようとしない辺り、本気でどうでも良いらしかった。
「なぁおっさん、すげぇぞ、ダサいを体現してんだ」
ぷふぅーっ、とターレスが吹き出し、ばしばしと尻尾が動いた。バーダックがいつものように、ソファに寄りかかっているらしい。
「うるッせぇな」
バーダックのイラついた声がして、ソファの端からちらっと顔が見えた。眉間に皺を寄せた表情のまま、無言で戻る。
何の反応もなかったことにちょっぴり傷ついた心を、ターレスが抉りにかかる。
「ひー、フォローできねぇくらいだっせぇってか!」
満面の笑みで、心底嬉しそうなのがムカつく。悟天は声をあらげた。
「ち、地球では、そんなに恥ずかしくないって!」
ますます調子に乗るだけだった。呼吸困難になりそうなくらい大笑いし、だっせぇええ、とターレスが吹き出す。
「んもぅ!」
本気で怒ろうかな、と拳を握ったとき、肌に突き刺さるような冷気を感じた。背中の産毛が逆立つ感覚に息をのみ、辺りを見渡すと、背後のドアが開く音がした。
無言で入ってきたのは、微笑みを浮かべた兄だった。
ターレスは気づいていない様子だ。無理もない。普段なら、隠していても分かる兄の気が、全く感じなかった。その事実に恐怖を抱き、悟天は指一本動かせないまま、横を通りすぎてソファの前に立つ兄を見つめた。
「それね。僕の、お下がりなんですよ」
眼鏡で表情が読めない。悟飯が至近距離にいることにようやく気づき、ターレスが固まった。
一秒ごと、血の気が引いていくのが見える。気が読めないターレスにも、ヤバイということが本能的にわかったらしい。完全に真っ青になって、唇を舐めた。
「言い残すことは?」
顔が恐怖でひきつり、尻尾が膨らんで、指先が震えている。それでも、ターレスは無様な命乞いをしなかった。
「あの格好は、ダサい」
声は震えて掠れていたし、ちょっぴり泣いているように見えた。しかし、限界を越えた恐怖に打ち勝ち、自分を曲げず、ぶつかっていったことに悟天は感嘆した。
「マジで無いわ」
ターレスが付け加え、大気が揺れた。咆哮したわけでも、動いたわけでもない。ただ、怒りが渦のように大気に満ちた。色のついた気が、悟飯の回りに集まっていく。
終わりだ。
ターレスも悟ったのか、尻尾をブルブル震わせて、目を瞑っていた。
ソファによりかかっているはずの、バーダックの声がしない。巻き込むなよ位は警告しないと、間違えて一緒に消されてしまうのではないか、と悟天は不安になった。
尋常ではない緊迫感に満ちた部屋に、場違いな軽い足音が近づいてきた。
「ねえねえ、みんな聞いて。なんと今日は特売日だったの! ごちそう作るわね」
嬉しそうなビーデルの声がリビングに響く。そのまま、ビーデルはいそいそと台所に大荷物を置くと、悟天に気づいて手を口元にやった。
「やだ悟天君、それ学校のジャージじゃない。懐かしいわ」
手際よく野菜を取りだし、洗いながら、クスクスと笑う。
「そのジャージ、ダサいって不評だったのよ」
決定的な一言が、場を制した。
悟飯の回りに集まった気が霧散する。気は見えないまでも、殺気が消えたのを察したターレスが、まだ動けないまま静かに呟いた。
「俺様は、無罪だと思います」
震えてはいたが、その声は、確かな自信に満ち溢れていた。
未来が見えるバーダックは、ビーデルが来ることを見越して、何も言わなかったのだろう。さすが、抜け目ないな、と感心してソファを覗きこんでみた。
バーダックは、腕組みして寝息を立てていた。
「……寝てたの」
「ああ、さっきからこんな感じで、つまんねえ」
ターレスの声の調子が、戻りつつある。
単純に、眠すぎで状況を把握していないだけだったようだ。それでも、ターレスのウザ絡みに少しは答え、悟天をちら見した辺り、結構付き合いが良い。
「意外と丈夫なのよね、そのジャージ」
少なくとも一人の命を救った女神は、思い出したように笑い声をあげて続けた。
「そういえば、悟飯ったら、昔そのジャージで戦いに行ったのよ」
「ビーデル」
珍しく、悟飯が動揺したが、野菜を洗っているビーデルは気づかなかった。
「ええと、たしか、フリーザとか言う名前だったわね。そいつが来た時よ」
再び、緊張が走った。ターレスの頬を、汗が伝うのが見える。
「フリーザだと? う、宇宙の帝王の前に、これで行ったのかよ……」
「会うの四度目くらいの時にな」
珍しく、早口だ。悟天は、ふと思い出した。
「俺、その話は初耳だけどさ。たしかその前は、グレサイの格好でワンパンKOしたんだったよね。地獄がめちゃくちゃになったじゃん、あの時」
「マジかよ……あの格好でワンパンKOされるとか、もはや罰ゲームだろ……」
からかっているのではなく、本気で衝撃を受けているらしい。尻尾も、プルプルと震えている。
「あれ、そういえば何で、胴着とかグレサイじゃなくて、ジャージだったの?」
胴着、もしくはグレサイの格好で戦うことが多かったはずだ。
悟飯が答える前に、ビーデルが返事した。
「グレサイはね、パンがよだれでベタベタにしちゃって、全部洗濯してたのよ」
あははっ、と明るく笑うビーデルの横で、悟飯が「まあ、色々あるんだよ」と遠い目になった。
「マジかよ……帝王の前に行くのに、近所のスーパー感覚なのかよ。逆にすげぇわ」
ターレスが感心し、悟飯はさらに複雑な表情になった。
「しょうがないだろ」
「いや、あり得ない……ダサすぎるにも程がある……お前はサイヤ人だろ、もっと誇りを持てよ!」
ソファに突っ伏し、うわぁあと慟哭する。予想外の反応に、悟飯も面食らったようだった。
「わ、悪かったよ……」
珍しく、謝った。
悟天が目を丸くしていると、ターレスは顔をあげ、まっすぐ悟飯を見つめて冷静な声を出した。
「サイヤ人が皆、お前みたいにダサいと思われたら困るんだよな」
その表情と口調は、嫌味の要素は皆無で、純粋な本音だった。ただ、直球過ぎた。
一瞬の後に、ターレスが腹を抱えてうずくまっている。視界に入っていたはずなのに、ターレスの腹に拳がめり込むのが全く見えず、悟天は修行不足に危機感を覚えたのだった。
終
見慣れれば、ジャージ可愛いです。学校指定かどうかはわかりません。
#
by oyakatasamah
| 2015-05-03 14:25
| DB/短
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